「プライベートバンク」という名前は一度は聞いたことがあると思います。何となく富裕層向けの銀行、ということはご存知かと思いますが、詳しい特徴についてはあまり聞いたことがないという方も多いと思います。
海外の映画の中でも「スイス銀行に預けている資産」などという表現をよく聞くことがあると思いますが、スイスはプライベートバンクの発祥の地であり、今でも多くのプライベートバンクが存在し、銀行家やプライベートバンカーという職業の人がいます。今回は、プライベートバンクと一般の銀行の違いについて、そしてスイスでプライベートバンクがなぜ発達したのか、最後にプライベートバンクの口座開設方法についても紹介していきます。
プライベートバンクとは
プライベートバンク(Private Bank)とは、富裕層(個人、一族)向けに資産の管理・運用などを行う銀行のことです。プライベートバンカーと呼ばれる専属の担当者が就き、資産運用の他にも、税金対策や旅行の手配、子供の学校の手配など、幅広くコンシェルジュ的な業務を行ってくれる場合もあります。
一般的にプライベートバンクの口座開設をするには、最低預入資産額が設定されており、最低100万ドル(約1.3億円)以上が必要になってきます。大手のプライベートバンクの場合は、最低預入資産額を200万ドル(約2.6億円)に設定している場合が多いです。
スイスでプライベートバンクが発達した理由
実は「スイス銀行」という名前の銀行はなく、あくまでもスイスにあるプライベートバンクの総称として使われています。そもそもなぜスイスでプライベートバンクが発達したのか、ポイントは3つあります。
①永世中立国
永世中立国なので国の政情も安定しており、どの国とも戦争しない、つまり財産が毀損する可能性も非常に低いというわけです。またEUにも加盟していないので、EUのルールに縛られず、完全に独立した立場として運営ができる点もメリットだと言えます。
スイスの通貨であるスイスフラン(CHF)は、日本円と同じように、世界の情勢が不安定になると買われやすい「安全資産」と言われています。スイスのプライベートバンクには、安全資産であるスイスフラン建で預けておける点もメリットです。
②資産の保全性が高い
スイスでは、プライベートバンクでの資産の保全に関して法整備がされており、安心して資産を預けることができます。さらに、伝統的なスイスのプライベートバンクでは、その経営者(プライベートバンカー)が、無限責任により、自分自身を信用の担保として、顧客と一心同体とも言える体制でサービスの提供を行っていたという特徴があります。
つまり、プライベートバンカーが顧客の利益に反するような行為を行わない仕組みとなっており、極めて信用度の高いサービスとなっています。
③秘匿性が高かった
これは過去の話になります。通常であれば口座の名義には、個人や法人の名前が使われますが、昔のスイスのプライベートバンクでは、名義を全部数字にすることができました。口座番号が口座名義になっているイメージで、その口座が誰のものか、パッと見てわからないようになっていました。
その口座が誰のものなのか、世界の当局からもわからないので、富裕層がこぞってスイスの銀行にお金を隠していたのです。ですが、最近では国家間で口座情報を自動交換するCRS(共通報告基準)制度をはじめ、財産隠しや租税回避への対策が強化・推進されています。その一番のきっかけとなったのが2015年の「スイスリークス事件」です。
これはロンドンに本店を構えるHSBCホールディングスのプライベートバンク部門(本社:スイス・ジュネーブ)が顧客に対して脱税の幇助をしていたことが発覚したという事件です。
この事件により、プライベートバンクを使って脱税をしている人が多いということが明るみに出たため、世界的に取り締まりを強化していこう、CRSを導入して口座情報を開示していこうという動きになったわけです。
そのため、現在は以前のような秘匿性の高さが薄れてきてしまっています。伝統的なプライベートバンクの運営に必要だった秘匿性が使えなくなったこともあって、今までのような無限責任のパートナーシップ制をやめて有限責任の株式会社化(商業銀行化)するプライベートバンクが増えています。
現在、無限責任を採用する伝統的なプライベートバンクはわずか5社になっています。
Baumann&Cie
Bordier&Cie
Rahn + Bodmer Co.
E. Gutzwiller&Cie
Reichmuth&Co
UBSやクレディスイスなどのプライベートバンクは、無限責任の伝統的なプライベートバンクではなくなり、現在はプライベートバンクに似たサービス「プライベートバンクサービス」を提供しています。現在は、旧無限責任の銀行(UBSやクレディスイスなど)も含めてプライベートバンクと呼ばれることが多いです。
日本の銀行とスイスのプライベートバンクの比較
プライベートバンクの特徴を理解するために、日本の銀行とスイスのプライベートバンクにどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
責任の所在
【日本の銀行】
日本の銀行は基本的に株式会社が多いので有限責任です。銀行が破綻しても戻ってくるお金は限定的です。日本には銀行が破綻しても1,000万円までは補償として戻ってくるペイオフという法律がありますが、それ以上は補償されないわけです。
日本の銀行や証券会社でも「プライベートバンクっぽい」サービスを提供していることがあり、プライベートバンキングサービスと呼ばれます。日本のプライベートバンキングサービス運用責任者は、キャリアアップで他の銀行に転職したり退社したりするケースも多いです。
プライベートバンクは基本的には一人ひとりのお客様に対して専属のプライベートバンカーが長きに渡って資産を管理しますが、このプライベートバンカーが次々に変わってしまったら、なかなかスムーズな相談ができないですし、連携もうまく取れません。プライベートバンキングサービスにはそういったデメリットもあります。
逆に退社するのが当たり前なので、手数料だけ高く取って儲かれば、もうそのお客さんの面倒を見る必要がないということで、簡単に転職してしまう考えの人もいます。
サービス内容
【日本】
厳密に言うと、日本の銀行にはプライベートバンクは存在しません。プライベートバンクと似たプライベートバンキングサービスを富裕層に提供する銀行や証券会社があるだけです。日本ではスイスのようにプライベートバンク運営に関する細かい法律が整っていないので、欧米のようなプライベートバンクは日本では運営しにくいところがあります。
プライベートバンクの開設方法
日本での開設方法
日本に支社があるスイスのプライベートバンク(有限責任)で口座開設をするか、日系の会社のプライベートバンキングサービスに申し込むという方法があります。
現在、日本に支社があるスイスの大手プライベートバンクはUBSとクレディ・スイスがあります。この2つは日本に支社を構えていますので、日本人でも日本で口座開設ができます。約200万ドル(2.6億円)以上の預け入れができ、審査に通れば口座開設ができます。以前はシティバンクやHSBCといった銀行もプライベートバンク業務を日本で行っていましたが、日本の風土に合わない、日本の法規制の中ではやりづらいということで、撤退してしまっています。
また、厳密なプライベートバンクではないのですが、プライベートバンクに近いプライベートバンキングサービスを行っている日系の会社があります。
例えば野村証券や大和証券、三菱UFJモルガンスタンレーPB証券などです。これらのプライベートバンキングサービスに関しては、スイスのプライベートバンクほど最低預入資産の条件が厳しくなく、およそ5,000万円〜利用が可能な場合が多いです。
海外での開設方法
海外でプライベートバンクの口座を開設するにはどうしたらいいのかについて説明します。基本的にはその国、例えばシンガポールのプライベートバンクであればシンガポールに直接行って、銀行の窓口で口座開設をすることになります。日本人顧客の多いシンガポールや香港では、日本語対応のプライベートバンカーがいるケースが多いです。
しかし、スイスやイギリスのプライベートバンクでは、英語でのやりとりが基本になるので注意が必要です。
一番良い方法は、実際に海外のプライベートバンクに口座を持っている人から紹介してもらうことです。
特に老舗のプライベートバンクであればあるほど、誰からの紹介であるかが重要視されます。数十億円以上の資産をお持ちの方は大抵プライベートバンクを利用しているので、そうした知り合いがいればご紹介をしていただくことが一番確実な方法です。
最低預入資産額の目安は、スイスの老舗プライベートバンクは1,000万ドル(13億円)以上、シンガポールのHSBCで500万ドル(6.5億円)以上となります。また、海外特有のやり方になりますが、預入資産に対してレバレッジをかける、または預入資産額以内の金額で低金利融資を受けることができ、資金効率良く運用するという仕組みもあります。
まとめ
世界的にマネーロンダリングや租税回避への対策強化が進む中、高い秘匿性と無限責任により成り立っていた伝統的なプライベートバンクは淘汰されつつあります。現在は、プライベートバンキングサービスという形で富裕層に特化した資産運用サービスを行うというのが主流になりました。
プライベートバンクを活用する富裕層は、リスクを取って高い利回りを求めるというよりも、資産を守りながらリスクを低く運用したいという志向が強いため、年間5~10%程度のリターンを目標に運用するケースが多いです。プライベートバンクには、大まかに分けると以下の3種類があるということも覚えておきましょう。
億単位の資産を築いた暁には、①または②のプライベートバンクに口座開設をして、手堅く運用していくというのも良いでしょう。
参考動画
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