タイのLTRビザ(Long-Term Resident Visa)完全ガイド|富裕層・リタイアメント向けの長期滞在戦略

FSIGMA株式会社 海外移住コンサルタントの山本聖です。

近年、タイへの長期移住を検討される富裕層・経営者・早期リタイア層からのご相談が急増しています。その背景には、物価の安さや温暖な気候だけでなく、2022年にタイ政府が導入したLTRビザ(Long-Term Resident Visa)という新たな制度の存在があります。従来のリタイアメントビザ(Non-OA)とは異なり、より高い資産要件を持つ代わりに、税制優遇・就労許可・90日レポート免除など、富裕層にとって実質的なメリットが多い制度設計となっています。

私がこれまで数多くの移住案件に携わってきた経験から言えば、「どのビザカテゴリを選ぶか」がタイ移住の成否を分ける最重要ポイントです。LTRビザは全員に適した選択肢ではありませんが、条件を満たす方にとっては非常に強力なツールとなります。本記事では、その要件・費用・メリット・注意点を包括的に解説します。

なお、本記事に記載の情報はタイ政府機関(BOI)の公式情報および執筆時点での調査に基づきますが、制度は変更される可能性があります。最新情報および個別の税務・法務判断については、必ず専門家にご相談ください。


目次

LTRビザとは?概要と背景

LTRビザ(Long-Term Resident Visa)は、タイ投資委員会(BOI)が管轄する10年間有効の長期滞在ビザです。2022年9月に正式運用が開始され、タイへの富裕層・専門家・リタイア層の誘致を目的として設計されました。

出典:Thailand Board of Investment – LTR Visa(取得日:2026-05-05)

従来のリタイアメントビザ(Non-OA)が1年更新であるのに対し、LTRビザは5年×2回更新で合計10年間の滞在が可能です。また、配偶者・子ども(20歳以下)を扶養家族として帯同でき、家族全体での移住計画に適しています。

LTRビザの4つのカテゴリと要件

LTRビザには申請者の属性によって4つのカテゴリが設けられています。

カテゴリ対象主な資産・収入要件就労許可
Wealthy Global Citizen富裕層資産100万USD以上 かつ 年収8万USD以上 または タイへの投資50万USD以上不可(投資活動は可)
Wealthy Pensioner裕福なリタイア層年収8万USD以上(年金・配当等)または タイへの投資25万USD以上不可
Work-from-Thailand Professionalリモートワーカー過去2年間の平均年収8万USD以上 かつ 雇用主が設立5年以上・時価総額10億USD以上等タイ国外の雇用主向けのみ可
Highly Skilled Professional高度専門職過去2年間の平均年収8万USD以上 かつ 対象分野(医療・教育・テック等)での10年以上の経験可(タイ国内)

上記の「8万USD」は、約1,256万8,000円(1 USD ≈ 157.1円 ※2026-05-06 07:56 JST時点のレートによる換算)に相当します。資産要件の「100万USD」は約1億5,710万円です。決して低いハードルではありませんが、それに見合ったメリットが用意されています。

💡 ワンポイントアドバイス
「Wealthy Pensioner」カテゴリは、年収8万USD未満でもタイ国内への投資25万USD(約3,927万5,000円)で代替可能です。不動産・タイ国債・BOI認定펀드への投資が対象となるため、流動資産が限られる方でも申請できる場合があります。投資先の適格性については必ず専門家に確認してください。

LTRビザの主なメリット

メリット詳細
長期滞在の安定性5年有効×2回更新で最大10年間。毎年の更新手続き不要
90日レポート免除通常ビザで義務の90日ごとの在留届出が年1回に緩和
優遇税率の可能性Highly Skilled Professional等は所得税17%の優遇税率が適用される可能性あり(要件あり)
ファストトラック入国スワンナプーム空港等での優先レーン利用が可能
扶養家族の帯同配偶者・20歳以下の子どもを扶養家族ビザで帯同可能
ワークパーミット取得の簡略化該当カテゴリはワークパーミットとビザを一体申請可能

特に見逃せないのが税制面の優遇措置です。Highly Skilled Professionalカテゴリで承認された場合、タイ国内所得に対する所得税が最大17%に抑えられる可能性があります。ただし、この優遇はすべての申請者に自動適用されるわけではなく、雇用先・業種・申請内容によって異なります。税務上の判断については、必ずタイの税務専門家にご相談ください。

申請費用と主なコスト

費用項目金額(THB)目安(円換算)
LTRビザ申請料(本人)50,000 THB約240,000円(1 THB ≈ 4.8円 ※2026-05-06 07:56 JST時点のレートによる換算)
扶養家族ビザ(1名あたり)10,000 THB約48,000円
ワークパーミット(該当者)3,000 THB約14,400円
健康保険(年額・目安)40,000〜100,000 THB約192,000〜480,000円

申請時には、タイ国内または指定医療機関での健康診断書・犯罪歴証明書・財務証明書類など多岐にわたる書類が必要です。書類の準備ミスや不備による不承認リスクを避けるためにも、専門家のサポートを活用することを強くお勧めします。

💡 ワンポイントアドバイス
LTRビザの審査はBOIが担当するため、通常のビザ申請よりも審査基準が明確でプロセスが整備されています。一方で英語での書類提出が基本となり、財務証明書類は公認会計士のサインや公証が必要な場合があります。日本の銀行残高証明書などを使用する際は、英訳・アポスティーユの取得まで含めたスケジュールで動くことが重要です。

注意点・デメリット(正直に書きます)

LTRビザには多くのメリットがある一方で、事前に把握しておくべき注意点も存在します。私は常にお客様に対してデメリットも包み隠さずお伝えするようにしています。

  • 永住権・市民権への道は開かれていない:LTRビザはあくまで長期滞在ビザであり、タイの永住権(PR)や市民権の取得に直結するものではありません。タイのPR取得は別途要件があり、難易度も高い制度です。
  • タイでの就労制限:Wealthy Global Citizen・Wealthy Pensionerカテゴリは就労が認められていません。タイ国内でのビジネス活動を検討される場合は、カテゴリ選択に注意が必要です。
  • 海外送金課税リスクの変化:タイは2024年以降、海外からの送金に対する課税ルールを改定しました。かつては「同年内に稼いだ所得の送金のみ課税対象」でしたが、現在は過去の貯蓄も課税対象となる可能性があります。個別の税務状況については、タイの税務専門家への相談が必須です。
  • 高い資産・収入ハードル:年収8万USDというハードルは、多くの早期リタイア層にとって容易ではありません。代替要件の投資条件を活用する場合も、適格投資先の確認が必要です。
  • 政治・制度リスク:タイは過去に政変を経験しており、制度そのものが変更・廃止されるリスクはゼロではありません。長期的な移住計画においては、複数の選択肢を持つことが賢明です。

よくある質問(Q&A)

Q1. LTRビザとリタイアメントビザ(Non-OA)はどちらが良いですか?

資産・収入要件を満たせるのであれば、安定性・特典の観点からLTRビザが優位です。Non-OAは年収・預金要件が低い一方、毎年更新が必要で90日レポート義務もあります。一方、Non-OAは申請費用が低く、LTRビザの要件を満たさない方には現実的な選択肢となります。どちらが適切かは、個人の状況に応じて判断が必要です。

Q2. 日本にいながら申請できますか?

LTRビザはBOIのオンラインポータルから申請書類を提出することが可能です。ただし、ビザの発行自体はタイ大使館(日本国内の場合は東京または大阪)で行われることになります。現地への渡航なしに一部の手続きを進めることはできますが、最終的には大使館窓口またはタイ入国時の手続きが必要です。

Q3. タイに移住した場合、日本の税金はどうなりますか?

日本の居住者から非居住者となる場合、日本国内所得(不動産賃料・配当等)は原則として日本での課税対象が継続します。また、出国税(国外転出時課税)の対象となる可能性もあります。タイ・日本双方の税務に関する個別判断は、両国の制度に精通した税理士にご相談ください。FSIGMAでは適切な専門家をご紹介しています。

Q4. 家族全員分の費用はどのくらいかかりますか?

たとえば本人+配偶者+子ども1名の場合、ビザ申請料だけで50,000 THB(約240,000円)+10,000 THB×2名(約96,000円)=合計約336,000円となります。これに健康保険・書類取得費用・専門家報酬などが加わるため、初年度の総費用は案件によって大きく異なります。詳細は個別にご相談ください。

Q5. LTRビザ保有中にタイ国外に長期滞在しても問題ありませんか?

LTRビザには通常のリタイアメントビザのような「年1回以上の入国義務」はなく、柔軟な海外渡航が可能とされています。ただし、タイでの税務上の居住者要件(年間180日以上の滞在)との関係には注意が必要です。海外滞在と税務ステータスの関係については、専門家に確認されることをお勧めします。


まとめ

タイのLTRビザは、資産・収入要件を満たす富裕層・リタイア層・高度専門職の方にとって、長期的な安定滞在と生活の質を両立できる優れた制度です。10年間の滞在保証・90日レポート緩和・税制優遇の可能性など、従来のビザ制度にはなかった実質的なメリットが揃っています。

一方で、高い資産要件・就労制限・海外送金課税リスクなど、事前に把握すべき注意点も存在します。「とりあえず申請してみる」ではなく、自身の資産状況・生活スタイル・税務環境を整理した上で、戦略的に取り組むことが重要です。

私たちFSIGMAは、タイ移住を検討されている方が「正しい情報に基づいて、自分に合った選択をできること」を最優先に考えています。LTRビザに限らず、タイへの移住に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。

※本記事の情報は2026年5月時点のものです。ビザ制度・税制は変更される可能性があります。最新情報および個別の法務・税務判断については、必ず専門家にご相談ください。為替レートは2026-05-06 07:56 JST時点のものを使用しています。

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山本聖 FSIGMA株式会社海外移住コンサルタント

記事執筆者

山本 聖

Sei Yamamoto

FSIGMA株式会社 海外移住コンサルタント
IYOU Accounting Advisory PLT 日本代表


1994年 横浜生まれ。慶應義塾大学法学部卒。19歳で学生起業、27歳でマレーシア・クアラルンプールへ移住。日本人経営者・富裕層向けに、マレーシア移住・海外事業進出を支援。ラブアン法人・マレーシア法人設立、各種ビザ取得サポート、遺言書作成サービスはじめ、プライベートバンクや国際信託を活用した資産形成・資産承継コンサルティングを行う。これまでに500名以上の日本人経営者・富裕層の海外移住・資産形成相談、サポート実績。

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