マレーシア法人設立及び就労ビザ取得方法について解説

マレーシアで法人を設立しようとする場合、まず、マレーシア国内でビジネスを行うのか否か、マレーシア国外だけでビジネスを行うのかによって、「マレーシア法人」を設立するのか、経済特区で「ラブアン法人」を設立するのかが分かれてきます。

本稿は、マレーシア国内でも事業展開が行える「マレーシア法人」の設立方法について解説をいたします。
ラブアン法人の設立方法についてはこちらのページをご覧ください。

目次

マレーシア法人設立の概要

外国企業がマレーシア法人を設立する場合は、株式有限責任会社(Company Limited by Shares)の非公開会社を選択するのが一般的です(後述します)。

現地法人設立は、ネームサーチという社名の使用許可申請し、社名使用許可後に設立登記書類をマレーシア登記局(CCM:マレー語ではSSM)に提出することで行われます。現地法人の設立および届出等は、全てオンラインで行うことができます。

また、会社設立後、30日以内に会社秘書役(Company Secretary)を任命する必要があります。

株式有限責任会社の場合、設立時は設立日から18カ月以内、その後は会計年度末から6カ月以内に株主に監査報告書を送付し、この送付日から30日以内にCCMに提出します。定款に定めのない限り、年次総会を開催する必要はなくなりました。

マレーシア法人の種類

 マレーシア法人とラブアン法人

マレーシアの法人には、 大きく分けるとマレーシア法人とラブアン法人の2つがあります。

マレーシア法人は、マレーシア国内、国外を問わず全世界でビジネスが展開できる法人です。
(法人税率24%、RM60万までの利益は17%の軽減税率)

ラブアン法人は、マレーシアの金融経済特区(オフショア金融センター)であるラブアン島で設立が認められた法人で、基本的にマレーシア国外でビジネスを展開する法人です。ラブアン法人は、所定の要件を満たせば優遇法人税率3%(または非課税)の恩恵を受けることができます。

マレーシア法人は、設立根拠法がマレーシア会社法、ラブアン法人は、設立根拠法がラブアン会社法と異なっています。

マレーシア法人とラブアン法人の主な違いは、以下の通りです。

マレーシア法人ラブアン法人
法人税率24%(利益RM60万までは、17%)3%または非課税
実体要件満たさない場合24%
マレーシア居住取締役最低一人必要不要
外資規制有りなし
最低資本金要件有り(業種毎に異なる)なし(1USD〜)
設立根拠法マレーシア会社法ラブアン会社法

 マレーシア法人の3種類

マレーシア法人には、3種類あります。

株式有限責任会社(Company Limited by Shares)

株式有限責任会社は出資者の責任を所有株式の金額を上限とする会社形態です。通常はこの形態の会社を設立することになります。
株式有限責任会社は、公開会社(Bhd.)と非公開会社(Sdn. Bhd)に分けられます。
Sdn .Bhdとは、マレー語のSendrian Berhadの略で、Private Company Limitedという意味です。

非公開会社とは、
・株主数50名以下
・株式の譲渡制限有り
・株式や社債の一般公募不可

公開会社は、非公開会社以外の株式有限責任会社を言います。

保証有限責任会社(Company Limited by Guarantee)

保証有限責任会社とは、出資者の責任を出資保証額の範囲内とする会社形態です。この形態の会社のみ定款の作成が明確に義務付けられています。

無限責任会社(Unlimited Company)

無限責任会社とは、出資者の責任に制限を課さない会社形態です。

外資規制

業種によって、外資が出資できる比率規制(出資比率規制)が異なります。
外資規制が存在する理由は、外資規制が現地のマレー人等を保護するための優遇政策(ブミプトラ政策)の実現手段だからです。

原則、民間企業に対する外国資本の出資比率は、所轄官庁のライセンスや許認可に付与された出資条件によって決まります。
製造業、流通・サービス業では、一部を除き100%外資が認められています。

【製造業】
原則、100%外資が認められています。

【金融機関】
法的な外資規制はありませんが、5%以上の株式を取得する場合には、外資・内資にかかわらず、マレーシア中央銀行の事前承認が必要となります。

【その他流通・サービス業など】
大きく3グループに分けられます。

資本規制が設けられていない業種(ただし、最低資本金条件などはあり)
デパートメントストア*
スーパーストア**
専門店
流通センター(Eコマースのフルフィルメントを含む)
その他の流通形態

*デパートメントストアは、1,000平方メートル以上または総面積の15%以上(最大5,000平方メートル未満)のスーパーマーケットを所有可能。
**スーパーストアは、売場面積3,000平方メートル以上5,000平方メートル未満で、多様な消費財を中心に販売するセルフサービス方式の店舗。特別市や一般市では、1,000平方メートル以上での出店も可能。

外資の参入が可能だが資本規制がある業種
ハイパーマーケット*
コンビニエンスストア**

*ハイパーマーケットは、売場面積5,000平方メートル以上で、多様な消費財を中心に販売するセルフサービス方式の店舗。資本の30%以上をブミプトラまたはマレー系が保有する必要あり。
**コンビニエンスストアは、24時間営業で、回転の速い品目を販売する、180平方メートル以下の店舗。外資の保有は30%まで可能で、資本の30%以上はブミプトラまたはマレー系が保有する必要あり。外資はフランチャイズ方式で参入するのが基本ですが、全体の30%までは直営店が認められる。

外資が参入できない業種
スーパーマーケット/ミニマーケット(販売フロア面積が3,000平方メートル未満)
食料品店/一般販売店
新聞販売店、雑貨品の販売店
薬局(伝統的なハーブや漢方薬を取り扱う薬局)
ガソリンスタンド
常設の市場(ウェットマーケット)や歩道店舗
国家戦略的利益に関与する事業*
布地屋、レストラン(高級店でない)、ビストロ、宝石店など

*ただし、水、エネルギー・電力供給、放送、防衛、保安等に関しては、外資出資比率の上限が30%または49%です。

その他、所定のステータスを取得することで、100%外資で会社を設立することが可能となる場合もあります。
業種ごとに所管官庁が異なります。
<各業種ステータスの所管官庁>
製造業:マレーシア投資開発庁(MIDA)
卸売・小売業、販売、レストラン、サービス:国内取引・協同組合・消費者庁(MDTCC)
観光業:観光省(Ministry of Tourism Malaysia)
運送業:陸上公共交通委員会(Land Public Transport Commission)税関(Royal Malaysian Customs)
建設業:建設業開発庁(CIDB) 

資本金に関する規制

最低払込資本金は、事業内容や必要な許認可に応じて定められています。
製造ライセンス取得会社では、株主資本RM250万、流通・サービス取引ではRM100万です。

製造業部門

RM250万以上の資本金を有するか、75人以上の常勤従業員を雇用する製造業に対しては、製造業ライセンスの取得が義務付けられています。
資本金がRM250万未満で、かつ常勤従業員75人未満の製造会社は、「製造ライセンス免除の確認書」をマレーシア投資開発庁(MIDA)に申請し、取得する。

非製造業部門

「流通取引・サービスへの外国資本参入に関する消費者庁(MDTCC)ガイドライン」の対象業種の会社に関しては、最低払込資本金はRM100万です。

また、建設業開発庁(Construction Industry Development Board:CIDB)にForeign Contractorとして登録される建設会社(外国法人のマレーシア支店または外資30%超の現地法人)に関しては、最低資本金がRM75万です。

会社秘書役(Company Secretary)

会社秘書役の概要

会社秘書役とは、会社法により規定されている会社の設立等や登記関連の事務手続き全般と株主総会、取締役会関連などの事務を行う者であり、企業ごとに会社秘書役を任命し、登記を行う必要があります。会社組織上重要な役割を果たす存在です。会社秘書役の選定は、会社秘書役会社や弁護士事務所に依頼することが多いです。

会社秘書役の設置義務

マレーシアの全会社には、少なくとも1人以上の会社秘書役の設置が義務付けられています。

会社秘書役の要件

会社秘書役の資格は、マレーシアに住所のある18歳以上の自然人でかつ有国家資格者。
また、会社秘書役協会などの組織会員やマレーシア会社登記所(CCM)により許可を得た者。

会社秘書役の選任・解任

会計秘書役の選任・解任は、取締役会の決議で行います。

マレーシア法人設立の手続き

事前準備

会社秘書役に設立を依頼する際には、下記の情報が必要なので、事前に準備しておきましょう。

・発起人の英語フルネーム およびパスポート写真ページのコピー
・ネームサーチ用 法人名候補(最低3個)
・居住取締役の住所・携帯電話番号
・取締役のフルネーム・パスポートコピー
・営業所住所・電話番号
・定款記載の事業
・資本金額
・株主の氏名、住所、株式数
・株主、取締役の住所証明書類
・開設予定銀行・支店名
など

会社名の許可申請(Name Search)

マレーシアで設立する会社名に関して、同一の会社名や類似商号が既に存在していないか調査することをネームサーチと言います。
会社名は、表記が少し違っても称呼が同じ場合などは、拒絶される可能性があります。
また、過去に実在したが現在は使用されていない法人名についても、使用が制限される場合があります。
第一候補がパスするとは限らないので、法人名の候補(〇〇○Sdn. Bhd.) は第3希望までは選んでおいたほうが良いでしょう。

ネームサーチの結果は、申請から2日程度で可否の結果が通知されます。
商号確定から3ヶ月以内に、必要書類をマレーシア登記局(CCM)に提出します。

【提出書類】
・商号認可書
・取締役及び発起人の法定宣誓書
・会社秘書役法定宣誓書
・現地会社基本定款及び付属定款
・英語版親会社の定款 

設立時の発起人及び取締役の選定

最低1名のマレーシア居住取締役(Director)を選任する必要があります。
取締役はマレーシア人である必要はありません。
通常は取締役が株主を兼ねることが多いです。

定款の作成について

マレーシアでは会社定款は2種類あります。
①Memorandum of Association(基本定款):会社の基本的事項を定めたもの
②Articles of Association(付属定款):基本的事項に付随する細則を定めたもの

Memorandum of Association(基本定款)記載事項
①社名
②マレーシア国内の登記住所 
③設立目的(事業範囲を広く記載すべき)
④発起人に関する情報
⑤株主が有限責任である旨
⑥授権資本と株式総数
⑦会社の諸権限

Articles of Association(付属定款)の記載事項
①株主総会関連事項
②株式関連事項
③会社の内部自治事項
④会社秘書役
など

授権資本及び払込資本金の決定

マレーシア会社法が規定する払込資本金の最低額は、1RM(マレーシアリンギット)です。
しかし、マレーシア法人の取締役の就労ビザ(Employment Pass)を取得するためには、マレーシア資本の比率や業種により必要な最低資本金額が変わります。

したがって、設立する会社で日本人が就労するためには、その金額を満たす資本金を用意する必要があります。

また、飲食業、小売業、貿易業、サービス業等に関しては
ライセンス取得のために、最低RM100万以上の払込資本金が必要です。

会社設立登記

会社登記の手続きは指定した会社秘書役がオンラインで行います。

銀行口座の開設と資本金の増資

会社設立後、直ちに銀行口座を開設し、払込資本金を支払います。

就労枠の認可と就労ビザの取得

非製造業の場合は資本金要件を満たし、国内産業省の卸小売貿易委員会(WRT)への登録をする場合がほとんどです。

製造業の場合は、マレーシア投資開発庁(MIDA)から永久または期限付きポジションの認可を得ます。

いずれの場合も、最終的には入国管理局からEmployment Pass(雇用パス)と呼ばれる就労ビザを取得します。

就労ビザを取得するためには、業種により必要な金額が決まっています。ほとんどの場合、外資100%の非製造業で就労ビザが必要な場合は、RM100万の払込資本金が必要です。

第一回取締役会の開催

会社設立完了後、1ヶ月以内に最初の取締役会を開催する必要があります。
実際には会社秘書役が用意した書面にサインをするだけの書面決議で済ませる企業がほとんどです。

第一回取締役会で決定すべき内容は、
– 株式発行
– 代表取締役の任命
– 取締役の任命
– 会社秘書役の任命
– 会計監査人の任命
など

日本の代表取締役の概念と同様に、取締役の中から1名、代表取締役(Managing Director)を選任する必要があります。Managing Directorとして登記を行うことで任期に制限がなくなり、かつManaging Directorは株主総会で退任する必要はありません。

ビジネスライセンスの取得

ほとんどの業種は、ビジネスライセンスの取得が必要です。ビジネスライセンスは最寄りの市役所に登録します。必要な書類は多く、マレー語での申請作業なので、会社を設立した際に依頼した専門業者(及び秘書役)に依頼するケースがほとんどです。

また、業種によっては、事業に関連した特有のライセンスの取得が必要です。
例えばレストランで酒類を提供するにはリカーライセンスが必要です。

第一回株主総会の開催

株主総会には、年次総会と臨時総会があります。最初の年次総会は会社設立後18ヶ月以内に開催します。取締役の選任や、配当の決定、監査人の選任、監査済みの決算書の承認、取締役報告書などを決議します。

マレーシア法人の設立費用

マレーシアで会社設立するために必要な期間や費用は、おおよそ下記のとおりです。
有限責任株式会社である「Company Limited by Shares」を外資100%で設立する際の事例です。

【マレーシア会社設立のための期間と費用】 
– 会社設立の所要期間:1~3ヶ月 
 *事業内容や役所の混雑状況にもよりますが、事業ライセンスの審査に別途2ヶ月以上かかる場合がございます。
– 会社設立及び事業ライセンス取得に関する必要経費:RM2万〜
– 最低払込資本金  :1RM (実務的にはRM50万以上に設定が必要)

会社設立の代行費用に関しては、法人設立サポートから就労ビザ取得までの費用としてRM2万程度はかかります。その他のサポート(市場調査や現地資本との合弁契約書の作成等)も追加するとさらに費用がかかる場合があります。

入国管理局に就労ビザ(Employment Pass)などの認可を申請する会社の最低資本金
資本の51%以上を外資が占める流通・サービス取引会社:RM100万
100%外国資本の会社:RM50万
ローカルと外資による合弁企業:RM35万
100%ローカル(マレーシア)資本の会社:RM25万

【就労ビザ取得にかかる期間と費用】
– 期間:法人設立、事業ライセンスの取得後に就労ビザの申請を行い、通常2ヶ月程度で取得が可能です。
– 費用:約RM1.5万〜(発行数によっても変動)

法人設立から事業ライセンス取得、ビザ取得までにトータル1年近くかかります。
特に外資法人の場合には事業ライセンスの審査が厳しく、かなりの時間を要します。
また役所の混雑状況にもよりますので、なるべく時間に余裕を持ってご準備を進めていただくことをお勧めしております。

一方、ラブアン法人の場合は最短約2ヶ月半で就労ビザ取得まで完了します。
マレーシア移住の手段として法人設立による就労ビザ取得をお考えの方は、ぜひラブアン法人の活用もご検討ください。

まとめ

マレーシア法人設立の方法に関する基礎事項を解説してきました。

マレーシア法人は、マレーシア国内でビジネスを行う場合に設立するものです。外資誘致地区で設立するラブアン法人に比べると、外資規制や資本金規制があり、条件が厳しい上に手続きも煩雑です。

弊社FSIGMAでは、ラブアン法人設立だけでなく、マレーシア法人設立に関するご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
日系の会計事務所・法律事務所との連携により、マレーシア法人設立・ビザ取得から事業運営まで、日本語対応での安心サポートが可能です。

現在、「オンライン無料相談(Zoomを使用)」を実施しております。ご希望の方は、以下のフォームよりお申し込みくださいませ。


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