今回は、
歴史から紐解くタックスヘイブンのルーツをご紹介していきます。
タックスヘイブンとは?
タックスヘイブン(Tax Haven)とは、そのまま日本語に訳すと「租税回避地」になります。ヘイブンは回避の「Haven」であり、天国の「Heaven」ではありません。タックスヘイブンとは「税金がかからない、または低税率の地域や国」のことで、一般的には法人税率が20%以下の国や地域を指します。また、有価証券などの投資益に対する課税がない点も特徴です。
タックスヘイブンの国・地域はどこ?
ヨーロッパでは、イギリス領のマン島・ガンジー島・ジャージー島以外に、
モナコ、ルクセンブルク、ジブラルタル、リヒテンシュタイン、マルタといった国がタックスヘイブンと言われています。中米やカリブ海諸国に目を移すと、イギリス領のケイマン島・ヴァージン諸島、バハマ、パナマ、ベリーズ、ケイコス諸島、タークス諸島、モントセラト島、アメリカ領ヴァージン諸島などがあります。
この辺りはアメリカに近いので、アメリカ系の富裕層が使っていたり、イギリス領も多いので、イギリスやヨーロッパ系の人たちが使っているエリアになります。
次は中東。ドバイやバーレーンといった国がタックスヘイブンに属しています。インド洋(東アフリカ沖)ではモーリシャス、セーシェルがタックスヘイブンと言われています。
オセアニア地域では西サモア、バヌアツ、クック諸島がタックスヘイブンですし、日本人に馴染みの深いアジアで言うと、シンガポールや香港、マレーシア領ラブアンといったところがタックスヘイブンになっています。
僕もタックスヘイブンを活用して、法人設立、節税したいです!でも小さい島には住みにくいなあ・・・。
そうだね!例えば、イギリス領ヴァージン諸島などに法人を立ててもビザが取れるから移住できるけど、小さな島に移住するのはやはり不便だね!
法人を立ててビザ取得で移住するなら、住みやすい場所がいいね
住みやすい場所はどこですか?
タックスヘイブンかつ移住先にもなりうる地域となると、ドバイ、シンガポール、香港、マレーシアは住みやすくて人気だよ!
タックスヘイブンの国の特徴
どの国も面積が狭いという特徴がありますが、面積が狭い国は製造業や農業を発展させることが非常に難しいですよね。
そこで、税率を安くすることで海外から企業を誘致し、特に物理的な場所をあまり必要としない「金融業」や「インターネット関連業」で伸びていこうとしている国が多いのが特徴です。
そういえば、さっきのタックスヘイブンのリストの中にはイギリス領の島が多かったですが、なんでですか?
実は、タックスヘイブンはイギリスが作ったという歴史があるんだよ!
なぜタックスヘイブンはイギリス領が多いの?
前述のヴァージン諸島をはじめ、ケイマン島やマン島など、イギリス領○○島というのがタックスヘイブンになっています。
その理由を明らかにするために、タックスヘイブンの歴史を紐解いてみましょう。
タックスヘイブンの歴史
その歴史は19世紀のイギリスに遡ります。いわゆる帝国主義時代、パックス=ブリタニカ時代とも言われていますが、イギリスが世界の覇権を握っていた時代です。当時のイギリスは世界中にたくさんの植民地を持っていました。
植民地を有効活用するために、植民地における企業の税金を低く設定して、海外から企業を誘致しました。
つまり、よその国から植民地経由でイギリスへお金を流そうとしたわけです。
具体的には、フランスやドイツ、イタリア、アメリカといった国々に対して、イギリス領のいろいろなところにタックスヘイブンを作り、税金を安くする代わりに企業をたくさん誘致したという経緯があります。
これがタックスヘイブンの始まりです。イギリスが作ったタックスヘイブンは今でも残っており、イギリスは世界で最も多くのタックスヘイブン領土を持っていると言われています。
現在も金融覇権を握るイギリス〜タックスヘイブンの元締め〜
多くのタックスヘイブンを抱えていることもあって、イギリスの外国為替の取扱量は世界1位です。
1日当たりで平均3兆5760億ドル。世界全体の40%以上をイギリスが占めています。
ちなみに2位はアメリカですが、約1兆3700億ドルとイギリスの半分以下です。世界の基軸通貨はアメリカドルですが、通貨の取引量という観点では実はイギリスが今でも世界1位です。
その理由は、タックスヘイブンをたくさん持っていて、そのタックスヘイブンを通して世界中の企業がお金をやりとりしているからです。イギリスは今でも金融分野で世界の覇権を握っていると言えます。
イギリスは昔から金融に強いんですね!でも他の国は、なんとかイギリスのタックスヘイブンから徴税しようと考えないんですか?
当然、他の国はタックスヘイブンからもなんとか徴税しようと考えるよね。しかし、イギリスは、タックスヘイブンにある財産とその持ち主を他の国に漏らさない仕組みを作って、企業や投資家を保護したんだ。
最強の秘密主義
イギリスは世界で最もタックスヘイブンの領土を持っているため、外貨がイギリス領を通じてやりとりされるわけですが、実は1960年代からスイスと同様に「秘密主義」が導入されました。
お金のやりとりに対して「誰がいくら何をやりとりした」といった情報を他の国に漏らさない、秘密主義を取り入れたわけです。これは富裕層や大企業にとって都合がいいということで、イギリス領のタックスヘイブンが使われるようになりました。なお、現在はこの「秘密主義」は取り除かれており、かなり透明性が高くなってきています。
なるほど〜!でも、タックスヘイブンの問題は、最近でも国際的に取り上げられていましたよね?
そうだね、タックスヘイブンの存在と問題が世界に知れ渡った事件の一つに「パナマ文書問題」があるよ!
パナマ文書問題とは?
パナマは中米の国で、欧米の富裕層御用達のタックスヘイブンになっています。事の発端は、2016年4月にパナマの法律事務所から顧客名簿が流出したことです。これは、パナマに法人(ペーパーカンパニー)を立てて税金逃れしている人たちのリストで、それが流出したことが話題になりました。
そのリストには、世界の権力者や富裕層と言われる人たちの名前がたくさん書き連ねられていました。
つまりこの人たちがタックスヘイブンを使って意図的に税金逃れしていることが発覚したわけです。ちなみに、日本人の名前もそのリストの中にあったそうです。その中には元外交官や大企業の経営者といった700名もの人たちの名前が入っていたと言われています。
結果、世界的にも多くのバッシングが起きた事件になり、事件の題材を扱った映画化もされました。
パナマ文書流出事件を題材にした映画『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』が、アメリカで公開されました。
メリル・ストリープが主演のコメディ映画。Netfrixで観られるみたいなので、気になる方はこちらもチェックしてみて下さい。
えー!でも、タックスヘイブンって、騒がれているけれど、違法ではないですよね?なぜバッシングが起きたのでしょうか。。
もちろんタックスヘイブンを活用して税金を抑えるのは合法だよ!
ただ、合法ではあるけれど、尊敬はしないよね。
「それだけたくさん稼いでいるのに、税金を払わないなんてズルい」
「政治家として自国からの租税回避を取り締まる立場なのに、自分が税金を納めないとはどういうことだ!」
という、倫理的な反発の声が多かったね。
おまけ:パナマは、船のタックスヘイブン
パナマは「船のタックスヘイブン」とも言われています。太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河があることで船の交通量が多いのもその理由の一つですが、船を置いておく税金が非常に安いのが主な理由です。
日本の商社でもパナマに船の船籍だけ置いておくことがよくあります。これを「便宜置籍船国」と言います。最近、日本の会社の船が他の国で座礁したというニュースがありましたが、よく見てみると日本の商社の持ち船でも船籍はパナマになっていました。
まとめ・今後の予想
今回は、タックスヘイブンの歴史について解説しました。
タックスヘイブンを活用した租税回避は、基本的に合法ですが、「倫理的」にどこまで認めるのかが世界的に議論になっています。GAFAなどの巨大IT企業もタックスヘイブンを活用して租税回避をしていますが、社会的責任の大きい企業はもっと「倫理観」を持って納税を行うべきとの声も上がっています。
タックスヘイブンの中には、ペーパーカンパニーのオーナーや資金の流れを特定するのが難しい秘匿性の高い国や地域があります。合法な租税回避ならまだしも、中には違法性のあるマネーロンダリング(資金洗浄)に使われていることもあり問題となっています。
OECDやEUは、タックスヘイブンの監視を強化し、秘匿性の高いタックスヘイブンの「ブラックリスト」を作成して、そのリストの国や地域の法人とは取引をしないように促しています。今後も、世界的に租税回避の仕組みを封じる対策や監視を強化する流れに変わりはないでしょう。
しかし、一方でタックスヘイブンを活用して税金を抑える仕組みが完全に消えることもないでしょう。
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